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beBit 遠藤直紀×IGPI 村岡隆史 対談

アフターデジタルの世界で
求められるトランスフォーメーションとは?

本年、IGPIが資本業務提携を結んだbeBit は「デジタル時代の本質はユーザーエクスペリエンス(UX)にある」と考えてUX型デジタルトランスフォーメーション(DX)を支援してきた会社です。
アフターデジタルの世界で求められるUXや企業変革について、beBit を率いる遠藤直紀さんとIGPI代表の村岡が対談しました。

遠藤 直紀
株式会社ビービット 代表取締役

横浜国立大学経営学部経営システム科学科を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。
2000年3月にビービットを設立し、代表取締役に就任。

主権はユーザーに移り、UXが重要になる

村岡 御社が提唱されている「アフターデジタル」の世界観について教えてください。

遠藤 オフラインがデジタル世界に包含される世界が、私たちの考える「アフターデジタル」の状況です。日本ではいまだにオフラインのリアルの世界が中心で、付加価値的にデジタル領域がある「ビフォアデジタル」の考え方が根強いのですが、諸外国ではオンラインがオフラインを呑み込むOMO(Online Merges with Offline)へのパラダイムシフトが起こっています。
 行動データを高頻度に取得できるモバイルデバイスやセンサーが普及すれば、データ化のできないオフライン行動はなくなります。そうなれば、お客様を1人1人認識しながら、いかにお客様とつながって複合的にサービスを提供するか、また、どのように最適な体験を紡ぎ出せるかの勝負になるはずです。

村岡 顧客価値やUXに着目し、そこに集中しようと考えたのには、何かきっかけがあるのでしょうか。

遠藤 私はもともとアクセンチュアで業務システムを開発していました。業務システムは一般的に使いづらいものが多いのですが、経費精算などの業務システムは、どうしても使わざるをえません。その強制力にあぐらをかいて、ユーザーのためという視点が欠けていました。一方、ネットで書籍を購入するなどのBtoCのシステムでは、自分にとって最適なサービスを選ぶことができ、選択肢を持つユーザーサイドにパワーがあります。
 インターネットが普及した世界では、あらゆるシステムにおいて、ユーザーに主権が移り、ユーザーにとって有益な体験、心地よい体験を提供できなければ成り立たない時代になると確信しました。それで、ユーザビリティやUXを磨き込むためのお手伝いができる会社になろうと決めました。
 日本では、その重要度が経営レイヤーにおいてなかなか認知されませんでしたが、最近はこの分野で進んでいる中国の先端事例を実際にお見せすることで、時代遅れを実感していただくようになってきました。

村岡 日本企業も御社の貢献や、中国企業の成功を目の当たりにして、ようやく真剣にデジタル時代に対応しなくてはならないことに気づいてきたと思います。 IGPIではこれまでコーポレート・トランスフォーメーション(CX)を支援してきましたが、御社では企業変革においてDX(デジタル・トランスフォーメーション)やUX(ユーザーエクスペリエンス)をどのように位置づけていますか。

遠藤 私たちの捉え方では、CXが一番上位に来ます。というのも、最初に企業の在り方を考える必要があるからです。その中の大きなテーマの1つがデジタルです。そして、デジタル技術を取り込み活用していく上で、お客様に提供するサービスや体験の品質を高めることが論点となる。CX、DX、UXが連なって統合的に変革しなくてはなりません。

村岡 書籍『アフターデジタル』と続編を読んで、UXを実現するためには、実は企業のフィロソフィー・レベルまで戻って議論しないと設計できないのではないかと気づきました。たとえば、中国のテンセントやアリババは、OMOのビジネスを成立させているだけでなく、社会的にも三方よしのモデルの実現を徹底して追及していますよね。これは、上位レイヤーにある企業の理念や考え方まで戻って、UXが練られているということです。我々が得意とするCXと、御社が提唱されているUX型DXは、提供するアウトプットに違いはあっても、共通性が強いと思います。

遠藤 おっしゃる通りです。デジタル時代には、製品やサービスのあり方が変わってきます。たとえば、自動車のモデルチェンジは、以前は4年に1回でしたが、テスラの車は毎週のようにソフトウエアが更新され、最適化されていく。4年に1回の前提が変わらないまま、いくらデジタル化を進めても、テスラには勝てません。
 そうなると、自分たちの理念やドメインは何か、これから10年、20年どのような価値を提供していくかをもう一度考えて、提供するUXを作り直す必要がある。それがUXの変革の本質だと考えています。
 オンライン、オフラインを含めた製品・サービス設計を練り直して、それを顧客接点に落とすのはテクニカルな部分ですが、そのためには上位の、そもそも自分たちはどんな価値を提供するのかに立ち返って考えないといけませんし、より良いUXを実現するために、組織やインセンティブの変更などのCXが必要になることもあります。その部分は、IGPIさんと協力していければと思っています。

村岡 隆史
株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO

三和銀行にて、プロジェクトファイナンス業務、M&A業務に従事。モルガンスタンレー証券を経て、産業再生機構に参画。三井鉱山、ミサワホーム、ミヤノ、ダイエー等の案件を統括。IGPI設立後は、数多くの企業の構造改革や事業再生に関わる他、中国・アジア諸国でのM&A・投資、成長戦略立案プロジェクトを多数統括。
金融庁参与、INCJ社外取締役、新日本工機社外取締役、池貝社外取締役
東京大学農学部卒、UCLA 経営学修士(MBA)

余力のある今、新しいモデルに挑戦すべき

村岡 UXのコンサルティング業務の中で、日本企業に不足していると思う点はありますか。

遠藤 2つあります。まず、新しいものは100発100中で成功することはないので、失敗を許容できるかが大きなポイントとなります。UXの方法論では失敗は当たり前で、挑戦量を上げて、仮説検証を繰り返して学習をしていき、目標に近づけます。減点主義では絶対に前に進めないのですが、それがうまくできない日本企業が多いと感じます。

村岡 失敗を許容するカルチャーをつくるところは、私たちが言う「両利き経営」が使えるかもしれませんね。

遠藤 2点目は、両利きでいう探索、つまり、ゼロイチでつくり上げる能力や経験値のある人が少ないことです。日本では1980年代以降、ずっと焼き直しと改善による拡大生産を続けてきましたが、ここまで状況や環境が変わると、同じモデルでは通用しません。改善活動と立ち上げ活動は、使う筋肉が全然違うので、ここは難しいところです。

村岡 私たちも企業変革を支援する際に、人材プールが不十分で組織能力が追い付いていないことを感じます。組織能力を高めないと、そもそもDXもUXもできないのです。内部の人を鍛えられればいいのですが、多くの場合、そう簡単ではありません。そこで外から若い人材や外国人を含めてDXスキルある人材を採用し、その人たちが従来型カルチャーにつぶされないよう出島のような形をとるなど、いろいろなやり方を考えます。

遠藤 まっすぐ1本道ではなく、あの手この手を使わないとうまくいかないことは、私たちも実感しています。立上げや再生も含めて豊富な経験値を持つIGPIさんのような存在に、長期的に支援してもらえる環境も必要だと思います。
 日本企業の傾向として、もう1つ気になるのがデータ活用です。短期目線ですぐに換金しようとしてしまう。
 本来であれば、お客様からいただいたデータを使って、提供するサービスの品質を向上させることにより、そのお客様にさらに使っていただき、よりデータが得られ、より良いサービスを提供できる。そうやって良いループが回り始めます。ビッグデータやAI(人工知能)はUXに還元するために使うべきなのです。これは私たちが「アフターデジタル」の世界観の中でも一番主張している点です。
 たとえば、アマゾンで昔買ったことのある本を買おうとすると、2度目だというアラートが出ます。それは売上を落とす行為ですし、わざわざその顧客の過去データに当たって調べるという面倒くさいプログラムを作り込んでいるわけです。けれども、長期的に考えれば、お客様が選ぶのは、それをやってくれるサービスとやらないサービスのどちらか。もちろんアマゾンですよね。データ活用とはそういうことだと理解しなくてはなりません。

村岡 少なくとも中国やアメリカで勝っている企業は、短期的なマネタイズは目指していない。しっかりと三方よしを実現して、自社に戻ってくるモデルを作らないと、最終的な勝者になれないと理解し、そういうエコシステムを作っています。その意味では、日本企業は周回遅れで、短期志向でマネタイズと言いたがる気がします。

遠藤 今はまだ収益が上がっているので、新しいモデルへと挑戦できる余力はあります。ですが、それほど残された時間は多くないとも思っています。

コロナ禍で重要性の増す
デジタルを活用した顧客支援

村岡 新型コロナウイルスの影響をどのように捉えていますか。

遠藤 顧客を支援し、カスタマーサクセス(お客様の成功)を実現する方法論には、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチという3つのレイヤーがあります。ハイタッチは、1対1の手厚い営業で、人が工数をかけてお客様を支える。ロータッチは、それほどカスタマイズせず、みんなに同じサービス、例えばセミナーや勉強会などを提供する。テックタッチは、デジタルを活用した支援です。
 コロナでハイタッチがやりにくくなっています。テックタッチを増やし、その効果を高めていくことを真剣に考えなくてはなりません。アフターサポートのあり方、お客様との関係性をどう持続するかは、もう少しテクノロジーベースに変えないといけませんし、その変化はそう遠くない未来に来ると思っています。

村岡 テックタッチのコストがどんどん落ちてきているので、日本企業はもっとテックタッチを有効に使えるようにならないといけませんね。
 デジタル化する際、自然界にあるものを何らかの形でデフォルメしたり、端折ったりするので、本質的な価値、自然界にあるリアルな価値は希薄化されます。一方、日本人や日本企業の強みは、自然との共生に根付いた、アナログ的な強さ、伝統的な価値観にある。となれば、テックタッチを使いながら、ハイタッチの価値をより磨き上げれば、日本企業にとっての圧倒的な差別化要因にできるのではないかと思うのです。たとえば、アフターコロナでインバウンドが復活したとき、テックタッチを整えておき、ハイタッチのお客様には今まで以上にお金を払っていただけるようにしておく。
 ただしそのためにはCXを伴う変化が必要であり、今はまだ、そこまでのトランスフォーメーションが進んでいないことが危惧されます。

遠藤 UX領域に関わっていて感じるのは、フロントラインの人たちの優秀さです。コールセンターのオペレータや、ショップの店員のサービス品質は非常に高い。一方、本社の質については疑問符が付きます。戦略性や枠組みの見直しは本社にしかできない部分ですから、そこを強めないといけない。
 米軍には、陸軍、空軍、海軍とは独立して、自己遂行型の能力を持った海兵隊がいます。米国のテックジャイアントは、海兵隊のような専任チームを置き、どのように日々のサービスを改善するかに取り組み、通常の事業活動に干渉することもあります。これを実現するには、縦割りだけの組織形態やインセンティブ設計を見直す必要がありますが、日本企業の場合、その行為は禁忌に触れてしまいます。

村岡 環境変化に対応するためには、従来型の選択と集中の戦略論でポートフォリオを入れ替えるだけでは足りません。横串を通した取り組みが必要ですが、多くの日本企業には強い海兵隊がないし、社長でさえ海兵隊動員の権限を持っていません。しかし、それでは革命的な変化は起こせないので、そのために何をするかが、私たちの一番大きな問いかけです。
 そのやり方はいろいろ考えられます。たとえば、傭兵も含めた海兵隊部隊を作る、社長に海兵隊動員と最終意思決定の権限を集中させる、また、社長自身の資質・人間力も問われますので、次のトップの選び方、社長の決め方も含めてコーポレートのアーキテクチャを変えていく。社長候補となる人材プールを育てたり、ビジネスに必要な外部リソースを入れることを手伝うこともある。それで初めて、横串を通せたり、新しいビジネスモデルにイノベーションが起こせる可能性が高まる。そこにUXとつなげたモデルを入れる際には、御社とのコラボレーションで価値が出せそうですね。

村岡 最後に、今回の資本調達によって、beBitさんは今後、どのようなビジネスを目指されていますか。

遠藤 お客様の表情が見えて、その場でやり取りできるオフラインと違って、デジタルでは、特別な仕組みを作らないと、お客様を理解し、肌で感じることができません。そこで、2017年から、オンラインサービスの利用者を肌で感じ、より良いサービス提供のために何ができるか企画するために「USERGRAM(ユーザグラム)」というソフトウエアの提供に乗り出しました。御社からの資金もその開発に充てています。お客様が見えないというデジタル化における悩みは世界共通です。その課題を確実に解けるようプロダクトを洗練させ、グローバルでもソフトウエアサービスを展開できる企業を目指します。

村岡 IGPIは創業以来、クライアント企業に、企業再生、大型M&A、事業・経営の承継、新規事業の立ち上げなど、ある意味、経営上の不連続なイベントが起きた時にお手伝いをすることが多いです。ですが、beBitさんのメッセージを聞いて、企業がベンチャーとして生まれてから、大人になって成熟し、老舗になっても、企業のライフサイクルでより頻度を高めて関係を持てるように、我々が更に寄り添い型になれば、一段とクオリティの高い価値が出せるのではないかと感じました。ただ我々が24時間寄り添うのは難しい点もありますので、beBitさんにそこは担っていただき、イベントが起きたら私たちがアクセルを踏むというコラボレーションもできそうですね。

遠藤 IGPIさんにCXでハイタッチを担っていただき、私たちがUX型DXでテックタッチやロータッチを担うようなことも実現させたいですね。

村岡 そういう同盟関係になりたいですね。今日はありがとうございました。