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#9 NordicNinja VC Marek Kiisa/Rainer Sternfeld × IGPI 村岡隆史対談

価値観で結びつき、北欧・日本・シリコンバレーを繋ぐ力で世界を席巻するスタートアップを送り出す

JBIC IG Partners(経営共創基盤〔IGPI〕と国際協力銀行〔JBIC〕の合弁会社)とAS BaltCapの合弁会社である、北欧バルト地域で活動するVC(ベンチャー・キャピタル)NordicNinjaには、同地域の投資コミュニティから経験豊富な人材が参加しています。マネージングパートナーのマレック・キーサとライナー・スターンフェルドを迎えて、IGPIの村岡隆史がNordicNinjaならではの付加価値や今後の展望を議論しました。

マレック・キーサ(Marek Kiisa)
NordicNinja VCマネージングパートナー

エストニア出身、スウェーデン王立工科大学にて機械工学修士取得。エストニアエンジェル投資家ネットワーク(EstBAN) 及び北欧各国のエンジェル投資家ネットワークをブリッジするNordicBANの創業者。元エストニアVC協会(EstVCA)理事。カウフマン・フェロー(19期)。

北欧、日本、シリコンバレーの架け橋になる

村岡 NordicNinjaを立ち上げて2年半になりますが、ブランド構築や投資活動で着実に成果を出していると、JBICやIGPIでは評価しています。成功要因についてどのように捉えていますか。

キーサ 最初に挙げたいのが、JBIC IGが北欧に関する下調べをきちんと行い、全体的な活動を主導したことです。パナソニックやホンダなど世界的に知られる日本企業の存在は、日系のNordicNinjaがテクノロジー領域重視の独立系VCだというイメージ形成に役立ちました。ファンド規模も1億ユーロと申し分なく、NordicNinjaが北欧で主要な役割を果たせることが徐々に認識されるようになりました。その結果、地元地域の実績あるVC各社とも連携しながら、年間1000件単位で検討し多くのディールを獲得できたのです。さらに、チームメンバー全員がそれぞれのバックグラウンドや職務経験を活かしながら、投資先候補を探す努力もしてきました。

村岡 一体感のある組織になるまでには、文化的な対立など乗り越えるべき壁があったのではないでしょうか。

キーサ チームメンバーの50%は北欧バルト地域の出身で、マネージングパートナーの2人はエストニアから参加しました。この地域、特にエストニアの価値観は、日本のパートナーの価値観と非常によく似ていて、それが成功の鍵となりました。信頼関係と適切な価値観があれば、チームづくりはやりやすくなります。もちろん時間はかかりましたが、それぞれのバックグランドが違うからこそ、強い結びつきが実現しました。今現在も、私たちは世界クラスのチームとして活動していると自負しています。

スターンフェルド 私は当初から、日本のVCが北欧で活動して成功する可能性はとても大きいと思っていました。マレックが指摘したように、日本と北欧の価値観には親和性があります。他方、北欧各国の経済圏は小さく、外に出ざるをえないので、イノベーションには意欲的です。さらに、私はシリコンバレーで8年間、起業や事業売却などを経験し、この分野の知見を持っています。北欧のイノベーション意欲、日本のネットワーク、シリコンバレーの考え方という組み合わせは、必ず勝てる組み合わせだと思って、チームづくりに参加しました。

 日本のネットワークを活用した世界進出やハンズオンでの企業づくりを支援できることは、他社にはない付加価値です。だからこそ、AtomicoやEQT Venturesなどヨーロッパトップクラスのファンドも喜んで我々と一緒に投資を行い、北欧全体からディールを獲得できました。

村岡 シリコンバレーで培った視点から見て、NordicNinjaの差別化ポイントはどこにあるのでしょうか。

スターンフェルド シリコンバレーの考え方は非常に現実的で、これは北欧とも共通します。みんなが気にするのは、「誰が正しいか」よりも、「市場で何が真実であるか」ということ。できるだけ多くのアイデアを試して、うまくいくものを探そうとします。

 ただし北欧では、昔から「失敗しても大丈夫だ」という考え方があったのではなく、多数の小さな失敗をしながら、1つでも大成功すればいいというマインドに変わったのはここ15~20年です。北欧は市場規模の制約が大きく、天気も悪く、日本に比べて人口も少ないため、非常に現実的になって、最適化できる領域を探さざるをえないのです。

 一方で、品質や製品やビジネスの倫理的側面に注意を向けるところは、日本と北欧が非常に似ているポイントです。だからこそ、NordicNinjaは北欧、日本、シリコンバレーの架け橋になれると思っています。

キーサ 北欧の特徴を一言で補足すると、フィンランド語で忍耐や不屈の精神を指す「SISU(シス)」でしょう。失敗しても再び試みて、成功するまで試行錯誤を繰り返すという意味です。それから、デジタルネイティブも重要です。我々世代はそれなりにデジタルを使うデジタル移民ですが、若い人たちは「ソフトウエアが世界を席巻する」という考え方を持ち、デジタル社会に精通しています。そうしたデジタルネイティブ世代と、SISUが組み合わさることで、魔法が起こります。北欧の小国には巨大な産業や企業はありませんが、インターネットで全世界にアクセスすれば、そうした地域発のスタートアップでも評価額10億ドル以上のユニコーン企業になれるし、実際にそうなっています。

ライナー・スターンフェルド(Rainer Sternfeld)
NordicNinja VC マネージングパートナー

エストニア出身、タリン工科大学にてメカトロニクス修士取得。複数のデータ関連ビジネスを起業しシリコンバレーやヨーロッパにて勤務。現職以前は、自身で起業し、2017 年にIntertrust社に買収された、地理的空間、エネルギー、IoTデータのデータプラットフォームを提供するPlanet OS社のCEOに従事し、シリコンバレーにネットワークを有する。

デジタルを活用して、サステナビリティと収益性を両立させる

村岡 文化に関する指摘は興味深いですね。日本人も我慢強く、SISUに通じるところがあります。異なる点として、日本ではデジタルネイティブとデジタル移民の間に大きなギャップがあります。特に政治やビジネスの世界では、デジタル移民世代が力を持ち、急速に変化するデジタル世界に適応しきれていません。たとえば、ノキアなどの大企業はどのようにデジタル世界にうまく対応したのでしょうか。

キーサ 率直に言って、ノキアはデジタルへの移行では失敗したと思っています。互角の競争相手だったエリクソンは、新規事業の開発、M&A、スタートアップへの投資などで、社内に新世代のリーダーを取り込み、この移行期間をうまく生き延びましたが、ノキアは事業分割に追い込まれました。しかし、フィンランド政府の対応は良かったと思います。たとえば、ノキアの撤退により、研究開発拠点があった地方の小都市オウルの経済が悪化したため、政府は3つの大学を新設しました。その結果、今ではこの場所から多数のスタートアップが誕生しています。

スターンフェルド 大企業は、デジタル移民とデジタルネイティブの間にある大きな違いを超えて一緒に働く方法を見つける必要があります。以前は物理的な世界と仮想世界における生活は分かれていましたが、徐々に混ざり合い、境界線がなくなってきました。今後は現実世界で起こることはインターネット上でも起こり、その逆もあるはずです。

 もちろん社会のすべての機能がインターネット上で、信頼性と透明性の高い安全な方法で完全に確立されているわけではありません。しかし、デジタルを活用すれば効率性が高まるので、大企業も組織や仕事のやり方を作り直すべきでしょう。その際に、すべての事業を一つの組織にまとめてしまうと個々の競争力が評価しにくくなるので、実験の余地があるハイブリッド構造を探す必要があります。そこでは、スタートアップとの協力が鍵になると思います。

村岡 ありがとうございます。また、“サステナビリティ”が社会全体で重視されていますが、収益性とのバランスを取り方については、どうお考えでしょうか。

キーサ 一例として、我々の投資先で急成長中のスウェーデンのスタートアップEinrideを紹介しましょう。Einrideは有名なトラック会社であるVOLVOとScaniaの出身者が起業した会社です。両社ともに自動運転トラックを開発していましたが、既存顧客のビジネスを侵食する恐れがあったため、活動に支障が生じていました。そこで、開発者たちは独自に会社をつくり、各会社の物流部門にソリューションを提供することにしたのです。

 Einrideは、トヨタが20年前に工場で実装していたジャストインタイムなどの考え方を物流の世界に持ち込み、そこにさらに今日の技術を加えることで、最適な速度や空気抵抗での効率的な移動を可能にしました。その結果、コスト節減と同時にCO2排出削減も実現しているのです。

スターンフェルド サステナビリティと収益性は対立概念としてずっと議論してきましたが、両方を同時に実現することが重要です。長い目で見ると、既存のやり方では事業を維持できません。サステナビリティは将来の収益性を高める唯一の方法かつ、人類にとって史上最大の成長機会なのです。幸いなことに、我々のポートフォリオには、Einrideをはじめとして、そうした企業が含まれています。

村岡 隆史
株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO

三和銀行にて、プロジェクトファイナンス業務、M&A業務に従事。モルガンスタンレー証券を経て、産業再生機構に参画。三井鉱山、ミサワホーム、ミヤノ、ダイエー等の案件を統括。IGPI設立後は、数多くの企業の構造改革や事業再生に関わる他、中国・アジア諸国でのM&A・投資、成長戦略立案プロジェクトを多数統括。 INCJ社外取締役、新日本工機社外取締役、池貝社外取締役、元金融庁参与 東京大学農学部卒、UCLA 経営学修士(MBA)

欧州最大の日系VCとなって世界で戦う

村岡 NordicNinjaに関して個人的なビジョンと未来の夢を聞かせていただけますか。

キーサ 私の趣味でありライフワークはカーレースに出ることなのですが、過去に15年間、しっかり準備して学ぶ素晴らしいレーシングチームを率いていました。そこで得た知識をNordicNinjaに持ち込み、このAクラスのチームと一緒に働けることは最高の幸せだと心の底から感じています。

 この基盤をもとに、NordicNinjaが日本の資本を活用した北欧とヨーロッパの最大のプレーヤーになることを夢見ています。そのためには、さらに大きく強力な2号ファンドを立ち上げる必要があります。私たちのポートフォリオには、デジタルネイティブやデジタル・トランスフォーメーションを行う企業も含まれ、そこで学んだ知見を蓄積しています。また、イギリスやドイツなどのスタートアップへのアクセス、それからブランド力もあります。私たちは現在のディールやコネクションをベースにしながら、サステナブルな未来に焦点を当てたビジョンを持つファンドになれる自信があります。

スターンフェルド グローバルリーダーをつくるために、もはやシリコンバレーにいる必要はありません。投資対象となる世界ナンバーワンのチームさえ見つければ、私たちはファンドとして成功することができます。 ただし、世界ナンバーワンのチームに投資するには、世界のVCと戦っていく必要があります。たとえば、オンラインID認証を手掛けるVeriffへの投資では、シリコンバレーのファンドと競争することになりました。しかし、私たちは創設者と関係を既に築いていたので、投資ラウンドの一角に食い込めたのです。英語にインターンという言葉がありますが、私たちはどちらかというとエクスターンだと思います。投資するだけでなく、中に入って創業者と協力しながら会社づくりに携わるからです。私自身は投資家になった生涯起業家なので、そうした協業は苦になりませんし、実際に、ハンズオンのビジョン重視のファンドだという評判ができています。私たちはサステナビリティと社会の将来に関する非常に強いビジョンを持っています。

 今後はさらにファンドの規模を拡大し、未開拓の地域に出て行く必要がありますが、ヨーロッパ最大の日系VCファンドとして、ヨーロッパのVC業界をリードしていく可能性は非常に高いと思います。

村岡 私は子どもの頃、本気でニンジャになりたいと思っていましたが、小学校の先生から、現代の日本にはもうニンジャは存在しないと言われたとき、とてもショックでした。ですが今、北欧でニンジャを見つけることができました!

 ただ、NordicNinjaの活動の場をヨーロッパに制限する必要はありません。ぜひ日本にも来て世界トップクラスのVCになってほしいと思っています。もちろん日本国内にVCは多いのですが、必ずしもグローバル展開は進んでいません。NordicNinjaのチームであれば、日本でリーディングVCになれますし、そのためにIGPIも緊密に連携するつもりです。

 最後に、日本の若い世代に向けてメッセージをいただけますか。

キーサ デジタル知識は継続学習が必要な分野です。大学や高校ですでに学位を取得していても不十分で、デジタルネイティブでないとしても、少なくとも優れたデジタル移民になる方法を学ぶべきです。デジタル世界では、失敗のコストは安く済みます。自分のプログラムがうまく機能しないなら置き換えて、SISUや我慢の精神で、テストと失敗を繰り返せばいいのです。

 ゆくゆくは日本の大学経由で若いデジタルネイティブに私たちのポートフォリオ企業を紹介し、そこでしばらく働いて、新しいメンタリティやDNAを学んでもらうといった活動を、JBICやIGPIと一緒に取り組めればと思っています。

スターンフェルド 私のイメージする良い環境は、みんなが火を囲んで座っていて、中心にある火が会社である、というものです。そういう環境づくりを促進したいと思っています。

 若い世代に伝えたいのは、とにかくトライし、早く失敗して、たくさんつくってみること。それから、自分を見失わないことです。自分がどこから来てどんな素晴らしいことをしているかについて誇りに持ってほしいですね。

村岡 IGPIは日本のトップ大学と非常に強いつながりがあるので、北欧のデジタルネイティブと日本の大学との間の一種のハブになれます。火を囲んで座る、日本でいうと、囲炉裏を囲むような状況も作り出せます。その実現に向けて私自身もコミットしたいと思います。

本対談の通奏低音となる北欧バルトのイノベーションや社会変革の最新動向を、現地インタビューを豊富に交えながらまとめたレポートはこちら。 レポート「北欧バルトに学ぶデジタルイノベーションと社会改革


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