IGPI’s Talk

HOME/ IGPI’s Talk/ #10 宮田 亮平 × 村岡隆史対談
#10 宮田 亮平 × 村岡 隆史対談

芸術文化による心の醸成が、ビジネスの発想力に繋がる

2021年5月よりIGPIアドバイザリーボードに参画いただいた金工作家で東京藝術大学第9代学長の宮田亮平氏。ドイツ留学をきっかけに日本や自分自身と向き合い、故郷の佐渡で出会ったイルカの大群を生涯のモチーフとしたと語ります。IGPIの村岡隆史と一緒に、芸術文化とビジネスの共通点や課題解決に向けた発想力について対談しました。

宮田 亮平氏
金工作家、東京藝術大学名誉教授

新潟県佐渡に蝋型鋳金作家の2代目宮田藍堂の3男として生まれる。1972年に東京藝術大学大学院美術研究科工芸専門課程(鍛金専攻)を修了。イルカをモチーフとした「シュプリンゲン」シリーズなどの作品で、「宮田亮平展」(個展)をはじめとして、国内外で多数の展覧会に参加。「日展」内閣総理大臣賞や、「日本現代工芸美術展」内閣総理大臣賞など数々の賞を受賞し、2012年に日本芸術院賞を受賞。東京藝術大学教授・美術学部長を経て、同大学学長を10年務めた後、2016年から文化庁長官に就任。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「東京2020エンブレム委員会」委員長も務めた。2019年には天皇陛下の御即位を祝う内閣からの献上品を制作。現在、東京藝術大学名誉教授・顧問、文部科学省参与。

経営コンサルティングと芸術文化の共通点

村岡 経済やビジネスの中における芸術文化の価値が強くなっていると感じます。海外に行くと、「あなたのアイデンティティやユニークネスは何か」という問いに答えられなければ、単なるビジネス屋としか見てもらえません。そこに文化がなければ、まともに戦えないのです。今日はその点において刺激をいただければと思っています。

宮田 最初にお伝えしたいのですが、私は企業に対して直接的、具体的に役立つような話はできません。どちらかというと、木から葉が落ちて土壌が肥えて、新しい芽が出て、育って実が成り、それを鳥が食べて種を運び、そこからまた芽が出る。化学肥料的なものではなく、そういう醸成された肥やしになる話ができればと思っています。

村岡 ぜひお願いします。私は文化・芸術と経済・ビジネスには共通する部分があると考えています。芸術家である宮田先生は「シュプリンゲン」などの作品をつくられていますが、私の場合、経営コンサルティングを提供する会社の1つ1つが作品です。自分の作品がどれだけの価値を社会に生むのか。20年前に関わった作品が今どうなっているか、いつも気になります。そうした作品への思い入れは、宮田先生にも共通するのではないでしょうか。

宮田 面白いですね。これまで、いろいろな企業の方とお話してきましたが、初めて聞く見解です。私がつくった作品は壊れることもありますが、ずっと生き続けます。会社もつぶれる場合もあるけれど、存続する。それが心配だというのは親心ですね。コンサルタントや作家は、親であり、子どもであり、親戚でもある。そんな関係の中で成り立っているのですね。

村岡 隆史
株式会社経営共創基盤 代表取締役CEO

三和銀行にて、プロジェクトファイナンス業務、M&A業務に従事。モルガンスタンレー証券を経て、産業再生機構に参画。三井鉱山、ミサワホーム、ミヤノ、ダイエー等の案件を統括。IGPI設立後は、数多くの企業の構造改革や事業再生に関わる他、中国・アジア諸国でのM&A・投資、成長戦略立案プロジェクトを多数統括。 INCJ社外取締役、新日本工機社外取締役、池貝社外取締役、元金融庁参与 東京大学農学部卒、UCLA 経営学修士(MBA)

じっくりと声を聞けば、答えは自動的に出てくる

村岡 先生が以前話された「金属の声を聞く」という言葉にも、はっとさせられました。私もコンサルティングをするとき、最初に会社の声を聞くようにしています。会社は人の塊なので、その人たちの声を徹底的に聞けば、コンサルティングの答えは自動的に自分の中から出てくる。ちゃんと聞かないと、エゴを押しつけることになります。

宮田 実は失礼ながら、コンサルティング業は必要なのかとずっと疑問でした。自分が考えて、自分の価値観や哲学で、自ら素材や大きさを選んだ状態で、やっと作品ができてくる。そのときにほかの人が介在するのは邪魔で、本来の純粋性が失われてしまう。ですが今のお話を聞いて、純粋性の中、いわゆる背骨の部分に深く入って話を聞くからこそ、ほかにも大きな世界があるのではないかという提案ができるのですね。

村岡 コンサルティングはよく病院に喩えられます。我々は企業にとっての総合病院で、たとえば癌にかかっている会社には、問答無用で直ちに適切な治療を施します。一方で、健康体ですがより健康になりたいという会社には、会話を通じて自ら答えを見つけてもらうコーチング型の支援をします。お客様の状態に合わせて、コンサルティング・スタイルをうまく変えていくことが重要です。

宮田 スポーツと似ていますね。素材として立派なものを持っているけれど、どこかに弱点があり、それは素晴らしい選手であるほど気づかない。そのときに、もう1歩踏み込めないかとコーチが声をかけることで、その人はより目覚めて強くなる。

 ただ、芸術家も同じかというと、やや疑問があります。それでは芸術家の個性がなくなってしまう。芸術の難しいところは、売れる作品が良い作品だとも、売れない作品が駄目だとも、言い切れないことです。理想的には、人様ではなく自分が一番いいと思えること。過去にないものをつくるプロセスの中で、「こんな自分がいたのか」と発見できる。そうした作品は、人様の手に渡った後で、新たな空間が醸成されます。

 作品についてあれこれ講評されたときに、そこで「わかってないくせに」と思うか。それを受け止めて、「そうか、また新たな挑戦をしてみよう」と思うか。私自身は、常に純粋性と冒険心を持ってチャレンジしたいと思っています。

村岡 外からの批判を肥やしにして、新しいものにチャレンジすることは、コンサルティングの世界でも必要です。ビジネスで使われる道具は進化していくので、プロフェッショナルとして死ぬまで新しいものを取り込み続けないといけない。その一方で、変わらない根っことなるのが、人間の塊と向き合って素材の魅力を引き出すことだと思います。

経済、芸術文化、観光が一体化した「三輪車構想」

宮田 私は「三輪車構想」というものを持っています。一輪車に乗れる人はごく少数。二輪車はほとんどの人が乗れますが、ペダルをこがないと倒れてしまう。三輪車は倒れないけれど、ハンドルが1つしかない。芸術文化、経済、観光という三輪のうち、どれか1つがハンドルをとって自分の方向に進めようとしても、そうはいかない。ハンドルを持つ人は方向性を作るのと同時に、ペダルを踏んで動かす責任があります。それも一輪だけで動かすのでなく、三輪をセットにしてお互いに意識する。そうすれば、長続きしてより前に進める素晴らしい関係になります。

村岡 三輪車構想の先には、文化立国、技術立国、観光立国としての日本があるのだと思いますが、文化立国になるには、何らかの形で稼ぐ力も備えなくてはなりません。そのためには、IGPIのような会社は何ができ、何をすべきなのかがテーマとなりますね。一方、会社ではなく、それを個人に落とした場合、三輪車をどう捉えればいいのか。文化芸術に興味はあっても、入り口がわからないというビジネス系の方は多いと思うのですが。

宮田 成功や満足度は何かと考えたときに、人間には必ず財力が必要となります。ですが、お金が山積みになっても、それだけでは生きていけない。食べ物などほかに必要なものがあり、中でも一番必要なのが心です。その心を醸成するのが、芸術や文化だと思います。心が豊かになれば、また財を溜めるための考え方が出てきます。

 一方、財がなく心だけでは、清貧に生きることになります。それは日本人の美学の中にある価値観ですが、それだけでも成り立たない。良い仕事をして歴史に名を残した人たちは、必ずその裏に三輪車の要素が含まれています。観光の中には、情報発信して人を惹きつけてファンになってもらったり、感動したりすることも含まれますから。

空のポケットと発想力をもたらすアナロジー

宮田 日本の近代文明の歴史を見ると、鹿鳴館の壁は慌ててペンキを塗っただけの偽物です。西洋風のモノマネで文化の文が成り立ったと思ってしまった。一方、桂離宮は静寂の中に、シンプルさ、空間美、自然との共生関係がある。そうしたしつらえの中に置かれた人間は清貧で、シンプルだからこそ、真っ白なキャンバスにひと筆置いてみよう、1枚の銅板をひと叩きしてみようと、次の展開が出てくる。空洞になった人間の心を埋めるだけのものがあり、それをいかに選びとるかが大切です。そういう日本文化を世界は評価し求めています。

 私は心の中にいつも、ドラえもんのポケットのように、空のポケットを用意しています。空洞がないと、何か突然来たときに頭の中に入れたつもりでも、勝手に消化して変わってしまい、赤のリンゴがピンクやオレンジになっている。空のポケットに入れておけば、何かを考えようと開けたときにも、ずっと赤のリンゴが見える。そうすると、何が起きても怖くないし、新たな目的に向けてしっかりと進んでいけます。いつも満タンですが、どこかに空洞を持っているというのが、私の心情です。

村岡 先生は世界的なアーティストですが、若い頃や修業時代には、どんなことを重視されてきたのでしょうか。

宮田 それは簡単です。自分の経験したことがないことでも、頼まれたときに絶対に断らないこと。金属以外の仕事でも断りませんでした。

村岡 その際には、自分のスキルが足りないということもありますよね。

宮田 もちろんです。造形力はあっても、それ以外は素人ですから、そのときは友だちや周りの輪を頼って話を聞きます。それで、なるほどと思って、つくって持っていくと、教えてくれた人も、依頼者も喜んでくれる。もっと喜ぶのは私。お金も入るし、こういう仕事もできるのだという経験知が得られる。だから、若い頃からいろいろなことをやってきました。

 一例として、大学3年生のときに、大阪万博用に鞍型HP曲面構造のテントをつくる依頼を受けました。金属で構造体はつくれても、布のことは全く知らなくて、テントのカーブをつくるのに苦労しました。そのときに参考にしたのが、女性用のガーターです。身体にフィットさせるために、テンションが一方向ではないことに気づいたのです。それで大量に仕入れて、模型をつくって布を張り込み、みんなで議論しながら、最適な形に仕上げていきました。

村岡 そこでよくガーターに行き着きましたね。ビジネスの世界でも、アナロジーは大切です。全く別の世界からアイデアを持ってくるためには、引き出しの多さ、空間的、歴史的な広がりをどれだけ持っているかが問われます。そうした発想力を持つためには、きっと興味や関心を広くお持ちだったのでしょうね。

宮田 当時はたまたま女性のミニスカートが流行していて、きれいだなと思ったのです。アドバイザーとして今の若い方たちから話を聞く機会があるのですが、皆さん多様な素晴らしさを持っていると感じます。ただし、アイデアは奇抜なだけではうまくいきません。奇抜というのは、瞬間で驚きがあるけれど、継続はしない。それを楽しむ大衆を意識しないと、うまくいきません。それはビジネスでも同じです。バスの事業では、立派なバスや良い運転手だけではなく、乗ってくれる人たちを考えた物語が必要になりますよね。

村岡 おっしゃるとおりです。匠や職人の伎があっても、それが自己満足になって、お客様である一般の人たちに良さが伝わらなければ、ビジネスとして失敗です。そのお客様は日本の中だけでなく、海外にもいるので、その可能性をどう考えられるか。若い人たちにはそこを一番期待したいですね。ちなみに、先生は若い頃に失敗されたこともあったのでしょうか。

宮田 努力は山ほどしましたが、失敗はしていません。失敗だと思うのは、自分が弱いだけ。それから自分の意志をちゃんと作品に伝えていないだけ。こんなに一生懸命つくったけれど駄目だなと思う自分がいるときには、成長している証拠です。

芸術作品は、共同体の一部である

宮田 IGPIさんのためにつくった作品は、1匹だけ下を向いているイルカがいるんです。これまでこのシリーズは何点かつくってきましたが、1匹だけ違う向きをしているイルカがいるのは、たぶんこれだけだと思います。

 お声がけいただいたとき、IGPIさんの手掛けるバス事業の話を聞きました。昔は花形企業だったバスが斜陽になったときに、逆に、手を差し伸べる考えを持っておられる。全体像をよく見て、そこに意味があると思う。企業体としてIGPIさんが目標としているものと、私が作品をつくろうと思っているものと、根本的な部分は全く変わらないのだなと。

 ただし、IGPIのエントランスで除幕式をした時に、この作品の置かれる場所が思っていたよりも広い空間で、作品が小さすぎて、そこにぽつんと置かれるのかなと心配でした。ですが、その後植栽や椅子を置き、色や質感もすべてソフトにしてくれたので、金属の硬さがある作品であっても、近寄りがたい雰囲気ではない。共同体としての空間の中で、一輪車ではなく、皆さんと一緒に1つの大きな流れをつくれるといいなと思いました。

村岡 空間全体をご覧になって安堵されたのですね。私たちがコンサルティングをする会社は人間の塊であるとともに、いろいろなものが有機体の塊ですから、常に変わっていくものとしてお客様を捉えなくてはなりません。一部だけを見て、良い悪いと評価してはいけない。細部を見ながら、一方で全体を見る力がないと、適切なアドバイスはできません。先生の作品から、そのことに改めて気づかされました。

宮田 芸術作品ではなく、IGPIや社員の一部と思っていただけると嬉しいです。触覚も大切なので、ぜひ作品に触ってみてください。

村岡 先生のような方と接点を持つことで私自身、大きな刺激をいただきました。これは、IGPIの1人1人、これからビジネスや経済の世界に入ってくる若者にとっても、大きな価値になります。本日はありがとうございました。


関連記事

RELATED ARTICLE