事例

人事権の壁を越えた中長期の経営人材育成 [コンサルティング]

タフアサインメントを通じた次世代経営人材育成の仕組みを確立させる

戦略を描いても、実現する組織力がない、人材がいない―――。

経営環境の変化の中で、非連続な変化を求められる企業は少なくない。しかしながら、戦略を描いてもそれを実行できる組織力・人材がなければ、絵にかいた餅で終わってしまう。 本記事では、IGPIがクライアントとともに既存の「人事権」に挑み、次世代経営人材育成の仕組みを導入、運営まで支援した事例をご紹介する。

誰とともに、何に挑んだのか?
「研修による育成」から、「本気のOJTによる育成」に転換

クライアント企業では、次世代経営人材の育成に向け、リーダーシップ研修や経営者養成講座など、さまざまな研修を行っていた。足元の業績は好調で、今後数年間であれば大きな心配もない。しかし、この先5~10年後の経営環境の変化、自社の戦略転換を考えると、これを乗り越えるために必要な組織力・人材面での不安は拭えない―――。

ここまではよくある話である。だが、この企業の素晴らしい点は、いつやってくるかわからないこの問題に光を当て、克服すべき課題として取り上げた点である。当初は社長の掛け声で始まったが、さまざまな取り組みの中で、ボードメンバー・人事部など、次世代経営人材育成のキーパーソンが参画し、この課題にコミットしていくことになった。

次世代経営人材の育成として、研修(OFF-JT)を実施している企業は多いが、はっきり言って人はOJT(タフアサインメントで藻掻いた経験)を通じて育つ(研修は知識を得たり、成長のきっかけにはなるが)。ただ、OJTを主体として人材育成を行うためには、人事異動を行うケースも出てくるため、特に組織・権限が部門別に分かれている大企業では人事権の問題に突き当たる。現場では、自部門の短期業績達成に向けた人材配置をするインセンティブが働く一方、経営人材育成を行うためには、全社かつ中長期視界での人材配置が必要となってくる。

本プロジェクトでは、両者をうまくバランスさせることを念頭に置き、経営人材育成の仕組みをビルトインすることにした。

非連続な変化に向けた取組み
「短期の業績達成」と「中長期の経営人材育成」の最適バランスに向けた試行錯誤

まずは中長期戦略を実現するために求められる組織力・主要ポジション(CXOなど)の人材要件を定義する(①)。その上で、CXOを育成するために必要なOJT経験、および経験する順番を整理していく(②)。なお、②は何通りも想定されるため、最もあり得そうなケースを作成した。勿論これ自体はモデルケースと言ってしまえばそれまでであるが、次世代経営人材の育成には多くの人が関与することになるため、みんなが共通認識として持てるものがあることは後々大きな意味を持った。そして、人材育成のPDCAを回すための仕組みを設計する(③)。人材プールの大きさや、アセスメント方法、OJTとの調整方法などを検討し、その後は人事異動の時期から逆算する形で(育成・アセスメント→OJTとの調整→人事異動までが上手く流れるように)年間スケジュールを引き、具体的な運用に着手する(④)。

検討のプロセスの中で、議論は「人事権がOJT側(次世代経営人材が所属する部門)にある中で、どうやって連携していくのか」に集中した。人材育成のミッションはコーポレートの人事部門が持っているが、各部門に「この人は異動させて、こんなチャレンジをさせた方が良いですよ」と言ったところで、現場の考えや事情が優先されることは想像できた。そこで、現場レイヤーでのすり合わせは丁寧に行うと同時に、具体的な意思決定は経営のレイヤー(ボード会)で行うこととした。中長期視界での変革に類する話は、現場レベルで調整してもなかなか前に進まないからである。

こうして書くと順調に進んだかのように見えるが、実際にはクライアントの皆様と試行錯誤の連続であった。取組み開始後3年で変化が見え始め、5年程度で定着、というのが実感である。なお、ここでのIGPIの役割は、もちろん仕組み設計に関する知見の提供もあるが、一番の存在意義は社内のヒエラルキーに巻き込まれることなく動きが取れることにある。人事はなかなか厄介なもので、時には外部人材のIGPIをうまく盾に使って事を進めていくということだ。

経営・経済の歴史へのインパクト
次世代経営人材プールから若手役員が誕生

運用を開始して3年後、当該人材プールから30代の若手役員が誕生。その後もさらに1名が誕生している。

本件の意味合いは、結果的に役員が誕生したことに留まらない。戦略実現のためには、役員だけではなく、要となるポジションを担う人材も必要である。次世代人材をプール化し、相当の育成投資を積み重ねてきたことで、これらの要で活躍する人材層も厚くなった。効果は組織全体に広がりを見せている。

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