IGPI’s Talk

#26-2 冨山和彦×西山圭太 対談

今後、IGPIグループはどんな歴史に挑むか

前編では、弊害が目立っていた昭和モデルの打破を目指した産業再生機構の活動、その後、どのような想いでメンバーが集まってIGPIを創業したかを振り返りました。令和になって新たに多くのメンバーが加わったIGPIグループは今後、何を目指していくのか。シニア・エグゼクティブ・フェロー西山圭太とグループ会長の冨山和彦がIGPIの今後を展望します。
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新時代を切り拓く3つの活動

西山 これまで昭和モデルからの転換に取り組んで来ましたが、世界では国をまたいでエコシステムが進化を続けています。そこにAIなどが出てきて、世界的に産業やガバナンスのあり方が再び変わろうとしています。IGPIグループは今後、どんなことにチャレンジするのでしょうか。

冨山 IGPIグループの活動は多岐にわたり、何をしているのか訳がわからないと内外からよく言われます。我々としては「経営と経済に新しい時代を切り拓く」というパーパスのために、主に3つのことをしています。1つめはコンサルティングで、会社を変えていく仕事です。2つめはインキュベーションで、新しいスタートアップや産業を生み出すことに関わっています。3つめが企業を買収して実際に経営をすること。いずれも通底するのは、それぞれの産業、事業領域、機能領域で古いパラダイムを新しくすることです。この3類型は経営と経済の世界に歴史的な転換を促せるメソドロジーなので、今後も続けていくつもりです。

西山 私はシニア・エグゼクティブ・フェローになって3年近くになりますが、IGPIを近くで見て一貫していると思うのが、新しいエコシステムとそれを支える人材をつくろうとしていることです。今起きている変化をキャッチフレーズにすれば、Optimize(最適化)からEvolve(進化)へだと思います。なぜEvolveが主流になるかというと、世界がComplex(複雑)になっているからであり、それに対処するには常にReconfigurable(再構成可能)でなければならないからです。

たとえば、南紀白浜エアポートの岡田信一郎さんは「空港を超える空港」にしたいと言っていますが、これはまさしく進化です。多数のバス会社を傘下に持つみちのりホールディングスはAIの技術であるダイナミックルーティングを使ってサービスを提供していますが、これも従来とは異なるバス会社への進化です。IGPIがエコシステムをつくる際にデジタル技術も活用して使い手である自分自身が進化していくところが面白いです。それが起こると歴史が変わります。IGPIのメンバーに限らず、他の人が担ってもいいという考え方で、進化の起点を作ろうとする。そこは他の会社にはない良さだと思います。

冨山 人口減少、地政学、環境など、人間や社会を取り巻く要素が変わっていく中で、昔のエコシステムはたいてい機能しなくなりますが、経路依存性が強く、常識のある人ほど変えるのは無理だと言います。たとえば、日本の大学が金儲けするのは無理だと言いますが、歴史の必然として金儲けをしないともちません。誰かがパリティ(均衡)を壊さないといけないので、IGPIは今までも、今までもこれからもそれをやっていくのだと思います。

古い常識に挑戦するうえでは、非常識なことをすることではなく、新しい常識を入れて未来をつくることが鍵になります。昭和モデルの日本社会の悪い癖は、イノベーションは自分で発明しなければいけないという思い込み。だから、技術イノベーションというと、研究室にこもってしまう。社会やエコシステムを変えることがイノベーションの本来の意味なので、パクって使えばいいんです。

イノベーションを探索し、両利きの経営を行う

西山 日本人はトーマス・エジソンの伝記の読みすぎですよね。エジソンはフィラメントの素材に竹を発見して、電球を発明しただけではなく、テレビや電力会社、そしてコングロマリットまでつくりましたが、そういう人は世界に何人もいません。それを目指すよりも、みちのりがダイナミックルーティングという発明を日本のバスで使っているように、発明を発見することに価値があります。

冨山 チャールズ・オライリーの「両利きの経営」の議論でも、イノベーション軸は探索で、開発という言葉を使っていません。

西山 今の生成AIがしていることも探索です。ルールを記憶しているわけではなくて、何回もデータを学習して、これは人間が気に入る答えらしい、という探索を繰り返して複雑なことをしています。逆に言えば、複雑なことをする場合、過去の知識やルールを覚えてもダメで、試行錯誤、つまり探索が必要です。これがoptimizeではなくevolveの時代、そしてそれを通じてcomplexなことをする現代を象徴しています。

冨山 日本企業の探索領域は、これまで工場や会社の中だけで、カイゼン・改良によって複雑なことをしてきました。今の時代は範囲を広げて、試行錯誤を繰り返して複雑なものを仕上げていく必要があり、それが日本の会社の生きる道だと思います。

西山 ウリケ・シェーデさんの「舞の海戦略」でも、舞の海の強みは「技」のデパートであって、「製品」のデパートではありません。普通、会社を表現してくれと言うと、多くの会社は製品のリストを書いてしまいますが、本当の組織能力とは探索する力です。そこで足りないものはオープンにして使う。今起きているのは、そういう競争です。日本企業の持ち技に使えるものがあるので、製品ではなく、技として見ないといけない。

冨山 稼げない商品にいくら技をつぎ込んでややこしくしても、値段が高くなるだけで稼げません。たとえば、テレビがそうですよね。これも根本原因の問題で、テレビの大量生産を与件として、いろいろなことが始まってしまう。会社とステークホルダーの関係性も含めて、ガバナンスモデルを設計し直す必要があります。

JPiXの活動では、ローカル企業を中心に、経営者の能力に期待して優良企業を買収して一緒にその事業を広げるケースと、少し残念な会社を買収して経営者を変えるケースがあります。そこで鍵になるのが、経営者とその後に続くCX、さらに、みちのりのようにIX(インダストリアル・トランスフォーメーション)で産業構造を変えていくことです。そう考えると、世の中にはまだまだやることがありそうです。

面白いことは面白い人の周りで起こる

西山 進化すると、必ずまた進化しなければなりません。それを残念だと思うか、楽しいと思うかが分かれ目です。ひとつ言えるのは、面白いことは面白い人の周りでしか起きないことです。そのために自分も面白くなる必要があるのですが、みなさんもこれから仕事されていく中で、肩書きではなく面白い人かどうかを大事にされるといいと思います。

冨山 IGPIグループの関係者には大企業の人もいれば、芸術の世界の人もいますが、それぞれの立場で20年、30年、ある種の革命戦争をしてきました。みんな面白い人に囲まれて面白いことが起き続けてきたのでしょうね。それは今後も変わりません。ということは、IGPIにいる若い人も含めて、どれだけ面白い人になれるか、あるいは、面白い人がここに集まってきてくれるかが大事ですね。AIが賢くなると、お勉強ができてつまらない人はAIに置き換わっていくので、面白い問いを立てる力と、多数の選択肢から選んで決断する力が今後は問われます。

西山 私が後輩によく言うのは、必ず常識を疑えということです。役所で全く新しい領域を担当するときにありがちなのが、自分も詳しくなろうとその領域の知識を必死に勉強することです。しかしどう考えても長年やっている相手のほうが詳しいので、そこで価値は出しにくい。それより見るべきなのは、長年専門でやっている相手だからこそ疑いもしない前提が必ずあるということで、日本の場合、それはおかしいことがしばしばです。そこを指摘すれば、業界内では誰も気づいていない点なので、徐々に政策の議論をリードできるようになります。IGPIの人はそれを大切にしているように思います。

冨山 8つの質問の「心が自由であるか」というのは、そういうことですよね。世界には違う常識が混在しているので、Gモードの仕事は特に自由な人に向いています。その一方で、コツコツと変えるのが得意な人がカイゼン・改良の延長線上でイノベーションを生み出すこともあります。IGPIではGとLの両方で常識を変えるゲームをしていて、どちらもあることが大事な多様性につながっています。

だから、IGPIに参画する人はまず、コンサルティングの仕事でファクトとロジックからある結論や選択肢を見出す訓練をするといいと思います。それがないと、前提を切り替えてもロジックが組めませんから。その先のゴールやキャリアは、コンサルティングやアドバイザーを極めてもいいし、投資・経営の世界でベンチャーを支援するのでも、既存企業に乗り込んで変革するのでもいい。僕らがまだ気づいていない新たなフロンティアにどんどん挑戦してほしいと思います。

西山 最後に、IGPIグループ全体に向けて一言お願いします。

冨山 IGPIグループは最初に人ありきで、戦略も組織も人に従います。ということは、その時代時代の人たちが、どう歴史を変えたいか。歴史を変える仕事は、他の人がやっていないことなので、競争密度が低く、たいていビジネスになります。国内、ローカル、グローバル、スタートアップから再生まで、企業の全ライフサイクル、産業分野を問わず、新しいフロンティアを切り拓くチェンジメーカーになることを応援する組織体であり続けるべきだと思っています。ここ十数年間で起きた変化や新しい探索と同時に、さらに探索領域を増やして、それを確実に収益化し深化させる。全体としてダイナミックな両利き経営することを私は期待していますし、必ずそうなるだろうと、若い人たちを信じています。

西山 IGPIはすごくユニークな組織だと思います。GとLなど活動内容はさまざまですが、共通するのは探索をしたり、常識を疑ったりすること。それをいろいろなレベル感で経験し共有できるのが大きな強みです。

私はシニア・エグゼクティブ・フェローの立場を利用して、IGPIのグローバルな拠点を勝手に訪ねて色々な刺激を受けています。IGPIグループの皆さんも一見関係のない仕事であっても見に行かれるといいと思います。それをしながら、面白い人だ、変わった人だと思われるようになれば、IGPIグループはさらに良くなると思います。

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